ベルソン先生の指 第2話

恵子がそんなことを考えていると
銀地に赤の二本線の入った車体がホームに
到着した。

恵子はやってきた電車に乗り込むと
ドアのそばに腰かけて窓の外を見た。

外はもう桜の季節なのか
ソメイヨシノが線路のわきに
美しい淡いピンクの花を咲かせている。

そうやって恵子がぼんやりと
もの思いにふけっていると
電車はいつの間にか田園調布駅についた。

恵子が車内で電車が発車するのを待っていると
「停止信号が押されました。
確認が終わるまでしばらく停車いたします」
と放送が流れた。

恵子はそのアナウンスを聞いてふらりと席を立った。
どちらにしろ、父に金の無心をしたところで
借入の全額を返済できるわけではない。
それならば今日急いで父の家に行く必要もない。

恵子はそう思って電車から降りるとプラットフォームに出た。
するとどこかからかすかなピアノの音が聞こえてきた。
「別れの歌?」
恵子はそのピアノの音を聞いて思った。

恵子が音大時代に何度も弾いたショパンのピアノ曲。
音大時代、恵子は何度も何度もこの曲を弾き続けた。
そう、ベルソン先生に自分の音を認めてもらうために。

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